電子書籍「満州-最後の奉天、望郷と鎮魂 : ある民間人引揚者母娘の二代記」刊行のお知らせ

満州-最後の奉天、望郷と鎮魂 : ある民間人引揚者母娘の二代記 


 

 

本編「序」より抜粋。


「どちらの出身ですか?」と、問われることがある。初対面で互いの紹介をする時などによく出てくる問いであるが、こう問われるごとに私は戸惑いを覚える。私自身にどこどこの出身という意識が存在しないからである。
遠く南米に移民となって故郷を離れた人たちの望郷の思いは強い。あるいは中国「残留孤児」といわれる人たちは故郷の記憶こそないが、ルーツを激しく求めるがゆえに記憶にない故郷こそが自らの出身地であると意識する。
私は旧満州国営口市に生まれ、引揚地は父の故郷徳島県鳴門市であった。父はすぐに仕事を求め神戸市に移住、私はそこで高校卒業までをすごし、その後進学のために上京した。両親はその後まもなく神戸市から明石市に転居した。
–中略–
残留孤児になる可能性があった私の人生の始まり、また満州崩壊後の混乱の中で母和栄がチフスに罹患するなどの状況下で生き延びてきたこと、祖母トクが、病死した伯父大ひろしが、私に対しかけがえのない愛情を注いでくれていたこと、それらを手記によって知ることができた。このような中で生かされてきた自分の命を考えると、もっと世の中に役立つ人になるべきだったという後悔の念もわく。祖母は「命を永らえたということをもってよし」と言ってくれそうな気もするが、なんとなく面目ないという気持ちになってしまう。
母和栄のライフヒストリーは祖母トクの手記と直接的連動性に欠けているが、戦後を生き残った者としての母娘二代のライフヒストリーとして掲載した。
天羽浩一 (著)
定価1,650円(本体1,500円+税)

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