ラグーナ出版ブログ:2021年7月21日「ハーフミラー」

こんにちは。今週の記事担当、編集部のエピンビです

ハーフミラー

日没後の図書館で、ハーフミラー状態になった大きな窓の「外」を眺めるのが好きだ。そこには図書館の脇に生えているハルジオンか何かが、映り込んでいる窓脇の木の段からすっくと生えているような感じに見える。なんでもない景色だが、その気になって眺めると拡張現実(AR)の発想の原型のようにも思え、SF映画よりも超現実っぽく見えてくる。雨の夜のアスファルトに街灯の光が映り込むとか、ヘッドライトでできた人の影が高速で流れたりするのを眺めたりとか。

もう一つの図書館では、窓の外の城跡の向こうを走る車のLEDテールランプの列と重ね合わされ、窓の外にも書架で満たされた図書館の景色が拡がっているように見えてきて、「あっち」に行ってみたくなる。ツクリモノめいたところがないリアリティを感じる。明け方の夢と同じで、ほんの入り口の世界しか覗かせてはくれないのだけれども。

 ハーフミラーというものを知ったのは就学前、鹿児島県文化センターの地下にあった科学館の展示である。凹面鏡凸面鏡とあり、自分の体が伸びたり縮んだりして映る鏡の隣の鏡はボタンを押すと鏡の中が照明され、アポロロケットの模型が見えるという仕掛けになっていた。以来、ハーフミラーが好きになった。科学の不思議の国に入り浸っていたように思う。

なんでもない景色の中に、非日常のかけらみたいなものを見て満足している。その気になって見れば、映画のワンシーンのようにも見えて、分け入ると向こう側に抜けそうな感じがする。行けそうな、行ってはいけなさそうなもどかしさ。その日常も年季が入って塵も積もれば山となる、というふうになった。若い精神の柔軟性は失われて久しいが、年を重ねることで初めて味わえるものもきっとあるのだろう。

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