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第14回 「外部の力」に助けられ

統合失調症の難しいところは、症状が重いときに自分で気付きにくい点です。精神科病院で勤務しているとき、多くの急性期の患者さんと出会います。「人に追われていて殺される」「『死ね』と聞こえて怖い」など、明らかに幻覚・妄想が認められるのに、「病気ではない」と訴えられます。

そういうとき私は、「あなたは病気でもないかもしれないけれど、とてもつらそうです。それがあなたや周りの人々をつらい気持ちにさせているように感じます。つらさが取り除けるように応援させてください」と話します。そして、つらさを取り除く過程を共に生きることで信頼関係を深めてきたように思います。

「病気」に限らず、自分のことに気付くのはとても難しいことです。長年引きこもっている方々は「自分のことが分からない」と言います。そして、他人の力を借りずに、何とかしようとしますが、どうにもならないという思いで、ますます無力感を覚えていくように思えます。キルケゴールは、「他者がいないところで自分自身であろうとする絶望」のことを、究極的で精神的な「死に至る病」と呼んでいますが、そこから抜け出すには、他人の力が必要だと思います。

前回紹介した坂本光司教授(経営学)とゼミ生の方々には、そのことを教わりました。「シナプスの笑い15号」では、障がい者雇用をテーマにした、彼らと精神障がいのある弊社社員との座談会を掲載しました。ゼミ生には、障がいのある子どものお父さんが多数いらっしゃって、人生をかけて取り組んでいらっしゃるのを知り、心が震えました。彼らの温かな声掛けで、「私たちの実践を必要としている人がいる」と強く励まされ、会社の存在理由を教えられたのです。

ラグーナ出版が紹介された「日本でいちばん大切にしたい会社」(あさ出版)

数回の来訪の後、坂本教授は、「『日本でいちばんたいせつにしたい会社3』にラグーナ出版を掲載したい」と、本を出している「あさ出版」(東京)の佐藤和夫社長と来社されました。現在60万部以上売れているシリーズを手に取ると、「人の幸せを念じた経営に貫かれた会社」をぶれることなく扱っている編集方針、本のデザイン、営業活動、どれをとっても一流だと感じました。

そんなシリーズの取材を受けるのですから、草野球チームが大リーグチームに試合を申し込まれたような気後れを感じました。でもお会いした佐藤社長は徹底して相手の話を聴く方でした。緊張を解かれ、安心して話す中で私は「聴く姿勢」の大切さをあらためて教えられました。その上、取材というよりは「支援」の申し出を受けたのです。坂本教授は、弊社から本を出すことや顧問になることを、佐藤社長は書店に対する本の販売支援に同行することを提案してくださり、涙がこぼれました。

ゼミ生の方々の来訪は10回以上に及び、あさ出版の営業マンの方には、弊社の本を営業するために九州の書店を同行販売していただきました。弊社の社員は、その度ごとに温かい言葉で励まされました。

思えば、ラグーナ出版を作った当初は、「会社の運営は自分1人で何でもしないといけない」と思い込み、難局では「会社のみんなでどうにかしないといけない」という緊張から、がちがちになっていました。引きこもりの方々と家族が「死に至る病」から抜け出すことと同じように、私たちにも外部の人の力が必要だったのです。

鹿児島市、ラグーナ出版社長 川畑善博


夢とつながりのなかでは本でも読めます